『ニュースの天才』(Shattered Glass)
久しぶりに川崎のTOHOシネマズに行ってきた。『21グラム』以来。困ったことに、チネチッタでも川崎TOHOでも、お正月映画一本で何スクリーンも占めていて、観たい映画があまりやっていないのだよね。最近都会が怖い(苦笑)で休みの日に渋谷とか新宿とか行きたくないし。
単館系ではこの『ニュースの天才』くらいしか川崎ではやっていないのだ。それにしても、チッタがいつも長蛇の列でチケットを買うのに15分くらいは平気で待たされるのに、TOHOはこの映画に限らず空いていること。街づくりっぽいコンセプトのチッタに対して、TOHOはさくらやとパチンコ屋の入っているビルの9階というのが敗因なんだろうか。音響はチッタ以上だろうし椅子も良くて非常にきれいな劇場なのにもったいない。
この映画、トム・クルーズが(仕事上のパートナーであるポーラ・ワグナーと)プロデュースしていると知らなかった。トム製作作品といえば『NARC』が地味ながらとてもいい映画だった。去年の秋にニューヨークに行ったときに公開されていて、新聞やTimeOutなどにも好意的な批評が載っていたので観に行った。
「New Republic」誌の若手記者が捏造記事を書きまくって、新編集長によって真相が明らかになるという実話を元にしている。主人公のスティーヴン・グラスの人物描写が秀逸。ヘイデン・クリステンセンがダサいメガネをかけて、いい演技を見せている。同僚の女性たちを巧みにソツなく褒めて編集部内での好感度をアップさせる一方で、ちょっと調べたらすぐわかるようなウソ記事を書いては目立とうとする青年。大胆な捏造をやっているわりには、突っ込まれると泣き言を言ったり「助けてくれよ」と頼ったりと人間の弱い部分を見せている。次から次へとウソを重ねても平気でいられて、半ば病的な嘘つきなんだけど、「こういう人、いるわあ」と思わせる。メガネの奥のヘイデンの大きな瞳がうろたえたり必死に訴えかけたり、本当はとてもハンサムなのに情けなくてカッコ悪くてちょっと同情しちゃう。ピーター・サースガード演じる新編集長の方は人望がなくて、かなり冷たい感じのする人で、実を言うと自分はこういう人は苦手だ。グラスに向ける憎しみのこもった冷ややかな目が相当やな感じ。更迭されてしまった元編集長派の編集部員が多くて、組織の人間関係の中で「仕事ができる人より、面倒見が良い親分肌の人のほうが好かれる」という困ったところを容赦なく描いている。こういうことってどこの会社でもある部分なのかも。ジャーナリズムに従事していなくても、この人間の弱さの部分というのは思い当たる節がある人が多いのでは。けっこう痛い。
『ロード・キラー』などでいつも「しょうがないダメな兄ちゃん」を演じることが多いスティーヴ・ザーンがライバルネットマガジンの編集者役。事件が起きた1998年当時の、紙媒体に比べてネット媒体は低く見られている部分が現れている。彼の同僚にロザリオ・ドーソン。そしてロザリオ・ドーソンと『KIDS』で共演したクロエ・セヴィニーがグラスの同僚役。人間味のある元編集長にハンク・アザリア(モデルとなった人物はイラクに従軍取材して犠牲になったそうだ)。演技陣の充実振りは賞賛に値する。
なぜグラスが捏造記事を書いたのか、というところはあえて描かないで、彼の天性の嘘つきぶりと、捏造が発覚する過程に集中して描いている。なので物足りなく感じる人もいるかも。上映時間も90分ないし。でも、演技が火花散る様子や事件の顛末は非常に迫力を持って描かれているので、観ている間は緊張感を持って面白く観られる映画。
それにしても最近はホントに映画を観ていないなあ。多分『ハウル』とか観ないだろうし、観たいと思わせる映画が少なすぎるよ。
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