『トロピカル・マラディ』&『Turtles Can Fly』
東京フィルメックスのコンペ作品は結局4本しか観なかったんだけど、この2本がグランプリ(『トロピカル~』)と審査員特別賞、観客賞(『Turtles Can Fly』)を受賞したってことだ。もちろん『Turtles Can Fly』の方が好きなわけだけど、作品のクオリティから言ってもこのあたりが受賞というのは予想の範囲内。
タイ映画「トロピカル・マラディ」。ウド・キアーのトークショーを最後まで聞いていたらちょっと前を見逃してしまったのだが、一言で言えば何にも似ていないヘンな映画。前半と後半とスパッと2本にできるような作品なのだけど、対にしたことに意味があるような、ないような。前半は兵士と農夫のカップルの日常を淡々と描く。すごく淡々としているのだけど、男性器型のお守りを見せて撫でさせる謎のおばさんとのエピソードとか、ちょっと笑えるところもアリ。前作「ブリスフリー・ユアーズ」ではかなり退屈したけど(生ちんこが大写しで大きくなるところはびっくりしたけど)、この映画は淡々としている割には退屈しない。後半は、ジャングルで虎の霊に取り憑かれた男の魂と遭遇した兵士の話。時間の経過とともにどんどん空が暗くなり、最後の方は真っ暗で時々人魂と思しき?光が飛び交うほかはほとんど何も見えない。虎に取り憑かれた男を象徴させるような、全裸で刺青だらけの男が唐突に登場。合間に、虎の絵とナレーションが挿入される。そして虎と兵士の魂は最後に触れ合う…。ジャングルを感じさせるアンビエントな電子ノイズが独特のグルーヴを感じさせる。なかなか理解するのが難しい映画だけど、突出した個性はあって、それゆえグランプリに輝いたのかも。(「ブリスフリー・ユアーズ」に続き同じ映画監督に2度も賞を与えてしまうのはどうか、という気はするが)
あと、ティーチインで「タイ映画を観るのはこれが初めてだけどこの映画を観てタイ映画の印象が出来上がってしまった」という質問が笑えた。『マッハ!』とかパン兄弟の作品とか『アタック・ナンバー・ハーフ』、タイ映画はアクションやホラー、コメディの印象が強くて、こんなに前衛的な作品ばかりだと思ったら大変だ。監督の話で、「トロピカル・マラディ」がタイで意外とヒットしたと言うのにも驚いた。こんなに作家性の強い作品が。
今回かなり楽しみにしていたバフマン・ゴバディの「Turtles Can Fly」期待に違わず力強く素晴らしい作品。国連に買い取ってもらえるため、地雷を集めるイラク在住クルド人難民の子供たち。リーダー的な存在の男の子サテライトはそのお金で衛星テレビ用のアンテナを買い、人々はテレビのニュース映像に見入る。この難民キャンプに余地能力を持つと言われている両腕のない少年と妹、そして幼い子の3人家族がやってきて、サテライトはこの可愛らしい妹に好意を抱くのだが…という話。地雷で脚を失った子供たちがたくさん登場し、ものすごく哀しい話なのだけど生き生きとして利発なサテライトや子供たちの姿にはユーモアもある。テレビを通してサダム・フセインやブッシュの姿が写されているのが、本当の戦争の真実は一番弱い子供たちの中にあるという明快な主張を、センチメンタルになることなくパワフルに描く。『酔っ払った馬の時間』でもそうだけど、この監督の作品は自然と人を見事に捉えたシネマトグラフィが素晴らしい。日本での公開が来年秋とかなり先なのが残念だ。イラク戦争開戦直前にイラク国内で撮影されたとのことだけど、アメリカ軍によるファルージャ掃討作戦で大勢の民間人が犠牲になっている今こそ、観られなければならない映画でもある。グランプリに最もふさわしい作品だろう。ティーチインの時間が短かったのが残念。友人が上映終了後クルド語で「あなたの映画はとても良かったです」と言ったところゴバディ監督が喜んでいたのが印象的。
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