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2017/09/21

ハリケーン被害に遭ったヒューストン・バレエの「マイヤリング」

アメリカ南部を襲ったハリケーン・ハーヴェイ。ヒューストンも甚大な被害を受けました。

ヒューストンのすべての劇場の駐車場は浸水のために使用不可能となり、ほとんどの劇場が被害を受けました。ヒューストン・バレエとヒューストン・オペラの本拠地であるWortham Theater Centerも、大きな被害を受けました。

https://www.nytimes.com/2017/09/19/arts/music/hurricane-harvey-closes-houstons-opera-and-ballet-home-for-a-season.html

12フィート(3.657メートル)もの浸水に劇場は見舞われ、衣装やかつらなどのワークショップも大きな被害を受けたそうです。水はポンプで排出されましたが、被害は予想よりも大きく、劇場は来年5月まで使用不可能となりました。またエレベーターの電気系統なども使えなくなったそうです。

ヒューストン・バレエのシーズン開幕演目「Poetry in Motion」(9月8日~17日)はキャンセルされました。しかし、The Hobby Centerという劇場が使えることになり、10月26日、27日にこのプログラムは上演されることになりました。これはスタントン・ウェルチ(芸術監督)の新作、ウィールドンの「回転木馬(A Dance) 」、そしてバランシンの「シンフォニー・インC」のトリプルビルです。当初より上演回数は減ってしまいましたが、完全なキャンセルは避けられたわけです。

https://www.broadwayworld.com/houston/article/Due-to-Hurricane-Harvey-Houston-Ballet-Announces-New-Dates-and-Venue-20170907

そして、北米カンパニーでの初演となるマクミラン振付の「マイヤリング」。こちらは、当初6公演が予定されていましたが、やはりThe Hobby Centerへと場所を移して、4公演となってしまいました。

https://www.houstonballet.org/seasontickets/pdps/2017-2018/Mayerling-2017/

北米カンパニーの初演となるだけに、今回の上演は気合の入ったものとなっています。ケネス・マクミランはヒューストン・バレエとの縁も深い振付家です。

「マイヤリング」の登場人物の相関図が作られており、これはわかりやすいです。

キャスティング
https://www.houstonballet.org/globalassets/pdp/mayerling/mayerling-casting.pdf

9月22日と23日(夜公演)
ルドルフ皇太子 コナー・ウォルシュ
ラリーシュ夫人 サラ・ウェッブ (この二人は新国立劇場バレエ団の「マノン」にゲスト出演していました)
ミッツィー・キャスパー 加治屋百合子

9月23日(昼公演)、24日
ルドルフ皇太子 シャールルイ吉山
ミッツィー・キャスパー 飯島望未

というわけで、日本人ダンサーも大活躍しています。中でも、吉山さんは日本人初のルドルフとのことです。こちらの記事によれば、仕上げの稽古も10日ほど中断したとのことですが、多くの男性ダンサーのあこがれる大役を踊ることは素晴らしいことですね。

吉山シャールルイ、加治屋百合子 復興祈り大役挑む 米ヒューストン・バレエ
https://mainichi.jp/articles/20170920/dde/012/040/004000c

しかし5月まで劇場が使えないということで、これから予定されている「白鳥の湖」そして「くるみ割り人形」を上演する劇場を見つけなければならないという困難も待ち受けています。特に「くるみ割り人形」は30公演以上行う予定で、北米のカンパニーの例にたがわずカンパニーのドル箱となっています。

KEEP HOUSTON BALLET STRONG
https://www.houstonballet.org/about/hb-strong/?id=13951
こちらで、劇場の現状、そして復旧の様子がレポートされ、また寄付を求めています。
バレエのリハーサル室の床を修復するだけでも、10万ドルもの資金が必要だそうです。

2017/09/20

勅使川原三郎、パリ・オペラ座への振付作品、他ヨーロッパでの活動。

この秋、勅使川原三郎さんとKARASは、多くの活動を予定しています。

現在、勅使川原三郎さんと佐東利穂子さんはパリ・オペラ座バレエ団への振付新作の創作に入りましたが、
フランス、イタリア、スロヴェニアの3カ国にて振付・創作・公演が続きます。
http://www.st-karas.com/news_jp/

まずは、勅使川原三郎さんがパリ・オペラ座バレエに振り付ける新作について。

10月25日に世界初演を迎えるこの新作は、「Grand miroir」というタイトルで、
エサ=ペッカ・サロネンの“Violin concerto” をサロネン自らによる指揮、演奏には諏訪内晶子さん(ヴァイオリン)が
参加して上演されます。

4名のエトワールを含む合計13名のダンサー達が、日々、勅使川原さんと共に新作に向かって稽古をしています。 https://www.operadeparis.fr/en/season-17-18/ballet/balanchine-teshigawara-bausch

[ダンサー] *エトワール
エミリー・コゼット(Emilie Cozette) *
ミリアム・ウルド=ブラム(Myriam Ould-Braham) *
カロリーヌ・バンス(Caroline Bance)
エロイーズ・ブルドン(Heloise Bourdon)
リディ・ヴァリシェス(Lyde Vareilhes)
ジュリエット・イレール(Juliette Hilaire)
アメリー・ジョアニデス(Amelie Joannides)
マチュー・ガニオ(Mathieu Ganio)*
ジェルマン・ルーヴェ (Germain Louvet)*
アルチュス・ラヴォー (Arthus Raveau)
グレゴリー・ガイヤール (Gregory Gaillard)
アントニオ・コンフォルティ(Antonio Conforti)
ジュリアン・ギエマール(Julien Guillemard)

この秋の勅使川原三郎さんの創作の中で注目すべきは、音楽を主軸においた創作・公演が続くということです。
最初の10月11日の公演は、1984年生まれでフランスの若手指揮者の中でも注目されている俊英ラファエル・ピションが設立したアンサンブル・ピグマリオンとの共演です。
2015年にパリにオープンしたばかりのフィルハーモニー・ド・パリで行われます。
近代的なコンサートホールとして新たに建設されたばかりの音楽のための素晴らしい劇場で、
J.S.バッハの「ブランデンブルグ協奏曲」を上演する演目です。

音楽家との共演は日本国内では実現していないプログラムが多くありますが、
いつか日本でも素晴らしい音楽とダンスの共演を実現させていきたいと考えているとのことです。

2017年秋の海外公演予定

Tristan_and_isolde_1162
(「トリスタンとイゾルデ」)

[フランス]
・Ensemble Pygmalionとの共演 (ブランデンブルグ協奏曲) [パリ]
Dance : 勅使川原三郎, 佐東利穂子
Music : アンサンブル・ピグマリオン
Date : 10/11
Venue :フィルハーモニー・ド・パリ
WEB : https://philharmoniedeparis.fr/en/activity/concert-vocal/17818-bach-en-sept-paroles-i-lumieres?date=1507746600

・パリ・オペラ座バレエ団への振付新作「Grand miroir」
Date : 10/25 (世界初演) *公演は11/16まで続きます
Music : エサ=ペッカ・サローネン (Violin Concerto)
Violin : 諏訪内晶子
Venue : ガルニエ宮
WEB : https://www.operadeparis.fr/en/season-17-18/ballet/balanchine-teshigawara-bausch
→インタビュー動画は下記をクリック
https://www.operadeparis.fr/en/season-17-18/ballet/balanchine-teshigawara-bausch/gallery#head

[イタリア]
・"Tristan and Isolde" [レッジオ・エミリア] *ヨーロッパ初演
Dance : 佐東利穂子, 勅使川原三郎
Date : 10/31
Venue : Teatro Ariosto
WEB : http://www.iteatri.re.it/Sezione.jsp?titolo=saburo-teshigawara-/-karas&idSezione=4911

・"Pointed Peak" [レッジオ・エミリア] *サイトスペシフィックパフォーマンス
Dance : 佐東利穂子, 勅使川原三郎, 鰐川枝里
Date : 11/2-5
Venue : Collezione Maramotti (美術館)
WEB : http://www.collezionemaramotti.org/en/exhibition-detail/-/saburo-teshigawara/251267
http://www.iteatri.re.it/Sezione.jsp?titolo=saburo-teshigawara-/-karas&idSezione=4914&lookfor=Teshigawara

[スロヴェニア]
・"Tristan and Isolde" [リュブリャナ]
Dance : 佐東利穂子, 勅使川原三郎
Date : 11/7
Venue : cankarjev dom/ Gallus hall
WEB : https://www.cd-cc.si/en/culture/music/saburo-teshigawara-rihoko-sato-tristan-and-isolde

なお、ヨーロッパより帰国後、「アップデイト・ダンス」の新作と、シアターXでの公演があります。

アップデイトダンスNo.49
2017年11月18日(土)~11月26日(日)まで、11月22日(水)休演日
KARAS APPARATUSにて


「イリュミナシオンーランボーの瞬きー」

公演日:2017年12月5日(火)~10日(日) *12/8(金)は休演
劇場:東京・両国 シアターX

今回の創作について、勅使川原さんが若い時にこの詩集を読んだ後に得た興奮と焦燥とで胸を躍らせた身体感覚が創作の動機になっているとのことです。アップデイト・ダンスで上演されて好評だった作品が、バージョンアップされてシアターXのために装いも新たに上演されます。

2017/09/19

SWAN MAGAZINE 2017年秋号 Vol.49

SWAN MAGAZINE 2017年秋号 Vol.49が発売中です。次の号でいよいよ50号となるのですね。今回も充実した内容です。

http://swanmagazine.heibonsha.co.jp/

[巻頭カラー]パリ・オペラ座 エトワールに夢中!
3月の日本公演で見事にエトワールに昇進した、ユーゴ・マルシャンです。

入団当初は192cmという高い身長が仇となってなかなか配役されなかったこと。まだコリフェの時に「くるみ割り人形」のドロッセルマイヤー/王子役に抜擢されるけど、踊る相手や日程が次々と変わって大変だったこと。鮮やかな「マノン」デ・グリュー役でのデビュー…。膝が丈夫でプリエがしっかりしているので、大柄な体でも柔らかい着地ができるとのことです。オペラ座学校での卒業公演の『コッペリア』ではコール・ド・バレエで、主役を踊ったのは同期のジェルマン・ルーヴェと、マチュー・コンタでした。美しい舞台写真もたくさん掲載されています。

[特集] 来日60周年 ボリショイ・バレエ

6月のボリショイ・バレエの来日公演についての記事が充実しています。舞台写真はもとより、「ルグリ・ガラ」にも出演したオルガ・スミルノワとセミョーン・チュージンというボリショイの新しい顔の二人のインタビューが興味深い。卓越した技術で知られるチュージンをもってしても、ヌレエフ版の『白鳥の湖』は大変難しい作品とのことです。

また、7月に「バレエ・アステラス」やワークショップで来日したワガノワ・アカデミー校長のニコライ・ツィスカリーゼの話も面白いです。ワガノワ・アカデミーは、国の予算で無料で通学できる生徒が毎年3千人の志願者の中から、60人ほど入学し、それ以外に私費で通う学生(留学生など)が45名ほど。でも、私費学生でも将来性のない生徒には退学をしてもらうとのことです。ツィスカリーゼは、マリーナ・セミョノーワ、ピョートル・ペストフ、ガリーナ・ウラノワ、ニコライ・ファジェーチェフという4人の教師に学びましたが、中でも、日本好きだったというペストフの教えの内容が興味深かったです。「ジャンプの着地は桜の花が池に落ちるように」という表現をされていたとのこと。

[連載]
パリ・オペラ座バレエ学校の四季 入団&進級試験

土屋裕子さんによるこの連載では、入団試験や進級試験について詳細に紹介されていました。外部入団試験では二山治雄さんが4位となりましたが、実際、21日のシーズンオープニングのデフィレに二山さんが登場する予定になっていますので、短期契約団員となれたということですね。
オペラ座学校の進級試験については、ほとんどの学年で男女それぞれ1~2名が退学となっています。129人の生徒のうち外国人が22人、日系は6人だそうです。

ハンブルク便り13では、
ハンブルク・バレエの来日公演でも踊られる「ニジンスキー」のレポートと、菅井円加さんの「シンデレラ・ストーリー」主役デビューについてのレポートが掲載されています。5月25日、27日の「ニジンスキー」公演(リアブコ主演)は、収録されDVDとして発売されるそうです。また、ノイマイヤーの新作「アンナ・カレーニナ」のレポートも。こちらは、ボリショイ・バレエ、そしてナショナル・バレエ・オブ・カナダとの共同制作であり、3バレエ団で上演される作品となります。

世界の劇場から、こんにちは!
海外で活躍する日本人ダンサーを紹介するコーナー。今回は、2016年のヴァルナ国際バレエコンクールで銀賞を受賞した、 白井沙恵佳さん(カナダ ロイヤル・ウィニペグ・バレエ)のインタビュー。まだ入団2年目ですが、30人とあまり大きくないバレエ団のため、役をもらえる機会に恵まれているとのことです。

[連載 第13話]
「SWAN ─白鳥─ドイツ編 」有吉京子

いよいよ、ノイマイヤーの「オテロ」の幕が開き、オテロ役のレオン、デスデモーナ役の真澄がそれぞれの内面を掘り下げて役を深めていく過程が描かれます。二人の心理が細やかに、息詰まるように描写されて行きます。

プレゼントコーナーでは、ユーゴ・マルシャンのサイン入り「ラ・シルフィード」のプログラムが1名様に、映画「ポリーナ、私を踊る」の原作本、有吉京子さんの直筆サイン色紙、そして7月に来日したエヴァン・マッキーの特製カレンダーが3名の読者の方に当たるプレゼントがあります。なかなか手に入らない貴重なカレンダー、ぜひともご応募ください。

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2017/09/18

宇宙飛行士を目指す物理学者のバレリーナ

メリット・ムーアは、チューリッヒ・バレエ、ボストン・バレエ、イングリッシュ・ナショナル・バレエ(ENB)で踊ったプロのバレリーナでありながら、ハーバード大学を卒業し、現在はオックスフォード大学の博士課程で量子物理学を専攻する物理学者でもあります。

http://physicsonpointe.com/about/

そして今、彼女は現在放映中のBBCの番組" Astronauts: Do You Have What It Takes?"で、宇宙飛行士を目指す12人の候補者の一人となり、ふるい落とされるまで全6回のこの番組に出演し続けます。

http://www.telegraph.co.uk/science/2017/08/20/oxford-physicist-professional-ballerina-battles-become-astronaut/

http://www.bbc.com/news/av/uk-england-oxfordshire-40491626/merritt-moore-the-professional-ballerina-and-quantum-physicist

彼女にとって宇宙飛行士となることは子供の時からの夢だったそうです。バレエで培った忍耐力と体力、そして物理学を修めていることは、宇宙飛行士を目指すうえで役に立っていますが、この番組では初めて経験するような非常に難しい課題に取り組まされて、決断力、忍耐力、協調性などを試されます。

こちらのインタビュー記事では、彼女はどうやってバレリーナと物理学のキャリアを両立させているかを語っています。
http://www.dancespirit.com/the-ballerina-whos-getting-her-phd-in-quantum-physics-might-add-astronaut-to-her-resume-2471024672.html

研究を優先させるために何回もバレエを辞めようとしたものの、そのたびにエネルギーや集中力が落ちてしまうそうです。そして彼女は、バレエダンサーには、バレエ以外の興味を持つことを勧めています。バレエの世界では不条理なことや不安や辛いこともありますが、もう一つの世界を持つことで、バレエでの苦労を忘れることができるし、また再びスタジオに戻りたいと思うきっかけにもなるし新しい動きへのインスピレーションも湧くそうです。

研究室においては、新しいソリューションや問題を可視化するために創造性が必要だし、ダンスの世界では、分析力を持つことで身体能力の限界を広げ、新しくて先進的なムーブメントを見つけることができるようになるとのこと。

メリット・ムーアは博士論文を提出後はしばらくフルタイムで踊るつもりでおり、物理学とダンスを融合させたプロジェクトに集中するそうです。ロンドン・コンテンポラリー・バレエでロボット科学を使った作品に取り組んでおり、これはただいまヴィクトリア&アルバート博物館で上演されてます。
https://www.vam.ac.uk/event/zwEaoBwK/slave-master-ldf

なお、彼女は、ダレン・ジョンストンの「ZERO POINT/ゼロ・ポイント」(高知県立美術館、バービカン劇場で2016年に上演)の科学コンサルタントも務めていました。

こちらのBBCの番組が終了し、宇宙飛行士に選ばれなくても、引き続き宇宙飛行士は目指すとのことです。平均的な宇宙飛行士は30代半ばで選ばれており、現在29歳の彼女は、まだまだチャンスがあると思っているとのこと。宇宙飛行士になれる確率は0.15%とも言われてますが、チャレンジし続けることでより良い自分になれると彼女は語っています。

宇宙でバレリーナがバレエを踊るという世界は本当に実現するかもしれませんね。

2017/09/17

「スカートはかなきゃダメですか?」名取寛人

現在来日公演中のトロカデロ・デ・モンテカルロ・バレエ団に、初の日本人ダンサーとして入団した名取寛人さんが、自らの半生を語る一冊が、「スカートはかなきゃダメですか?―ジャージで学校 」

スカートはかなきゃダメですか?―ジャージで学校 (世界をカエル―10代からの羅針盤)スカートはかなきゃダメですか?―ジャージで学校 (世界をカエル―10代からの羅針盤)
名取 寛人

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女性として生まれながら、中学生ごろから自分の性に違和感を覚えるようになり、やがて男性として生きようとする名取さん。体操選手として活躍しスポーツ推薦で高校に進学した名取さんは、高校卒業後、真田広之さんなどが所属していたJAC(ジャパン・アクション・クラブ)に通い、その後ショーダンサーとして活動。本格的にダンスを学ぼうと渡米し、29歳にしてバレエと出会う。

体操で培った身体能力、そして大変な努力はしたものの、名取さんはバレエをニューヨークで一年半学んだだけで、男性ばかりの団員で構成されたトロカデロ・デ・モンテカルロ・バレエ団のオーディションに合格して団員となり、7年間活躍する。女性であることを隠して入団した名取さんは、やがて女性であることがディレクターにわかってしまい、性適合手術を受けて身体も、戸籍上も男性となった。

自分の性に違和感を持っていたものの、女手ひとつで彼を育ててくれた母親など家族の理解とサポートに恵まれ、そしてクラスメイトや学校も理解があり、少しやんちゃではあるものの伸び伸びと育った名取さん。回り道をすることもあったけれども、努力を重ねて、男性ダンサーとして活躍をするという夢に向かって悩みながらもひたむきに進んでいった。年間150公演も行い世界中をツアーするトロカデロ・デ・モンテカルロ・バレエ(トロックス)で、生まれてはじめていじめを経験するけれども、そのことも自分の芸に集中するきっかけとなり、芸の肥やしとなった。

性適合手術も受けて、念願の男性となることもできたけれども、それでも本当に「男になった」わけではないという彼の言葉には重みがある。どんなに努力して、運に恵まれたとしても叶えられないことはある。そんな中で夢を追いかけること、自分らしく生きること、苦しい時にも物事のいい面を見ることでポジティブに生きていくということについて、この本は良い指針となると感じた。

この本を読むと、本当に名取さんという人は魅力的な人物であるというのが良く伝わってくる。中学、高校時代は人気者でよくモテたというのもわかるし、性別という大きな悩みを抱えながらも常に前向きで頑張る性格。この人柄が多くの幸運を引き寄せ、また素敵な出会いをもたらしてきたのだろう。やりたいことに向けてひたむきに努力してきた彼の生き方は、性に限らず悩める若い人(そして若くない人にも)に勇気を与えてくれる。率直で飾らない語り口、わかりやすい文章、とても読みやすい一冊だ。

トロカデロ・デ・モンテカルロ・バレエの内幕、そして日本のバレエ界の問題点についても触れてある部分があり、そういった意味でもとても面白い本。

名取さんは、2011年より、Hiroto’s showを立ち上げ、自己表現を模索する傍ら、舞台の演出、プロデュースを手がけ自らの新境地にチャレンジし続けている。バレエスタジオN ballet artsを主宰。今もなお、進化し続けているその姿には敬服するばかり。

名取寛人さんのブログ
https://hirotontr.wordpress.com/

告白を受け同級生ら全面的にバックアップ 性転換のバレエダンサー、地元鴻巣で公演へ 市民ダンサーと共演
http://www.saitama-np.co.jp/news/2017/09/13/09_.html

“男だけのバレエ団”日本人団員が語る「女性だった過去」
https://jisin.jp/serial/%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E3%82%B9%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%83%84/social/24679

2017/09/15

ボリショイ・バレエの2017-18シーズン予定など

9月12日にボリショイ劇場はオペラ「ボリス・ゴドノフ」でシーズンを開き、またメジンスキー文化相、ウリン総裁、音楽監督ソヒエフとバレエ芸術監督ワジーエフの記者会見が開かれました。

http://www.mk.ru/culture/2017/09/12/prapravnuchka-matildy-kshesinskoy-popolnila-truppu-bolshogo-teatra.html

まずは、公演が初日直前に中止となり、また演出を担当したキリル・セレブレンニコフが逮捕されてしまったバレエ作品「ヌレエフ」について。最初、この作品は2018-19シーズンへと延期となり、次に2018年5月、そして2017年12月初演となりました。ウリンは「今シーズン『ヌレエフ』を確実に上演することを強く希望しています。セレブレンニコフセレブレンニコフを捜査している捜査委員会にも、彼とミーティングができるように依頼しています。この作品は、セレブレンニコフの許可の下で上演できるようにしなければなりません」 ワジーエフも、「ヌレエフ」が2017年12月に上演できることを期待しているとのことです。

ボリショイ・バレエは22人の新入団員がいます。ボリショイ・アカデミーの出身者だけでなく、ワガノワ・アカデミー(マチルダ・クシェシンスカヤの血縁になるエレオノラ・セヴェナルドと、ツィスカリーゼの教え子であるイーゴル・ゲラシシェンコなど)やノボシビルスク、ペルミのバレエ学校の卒業生もいます。

(入団者の一覧はこちら。Anna Grigorieva, Anastasia Ermolaeva, Darya Kanshina, Anna Lebedeva, Tatyana Osipova, Stanislava Postnova, Eleonora Sevenard, Sofia Smirnova, Tatyana Tiliguzova, Ekaterina Fateeva, Valeria Shikina, Maria Shuvalova, Yegor Gerashchenko, Vitaliy Getmanov, Pyotr Gusev, Grigory Ikonnikov, Ilya Karpovich , Sergey Kuptsov, Arsentii Lazarev, Igor Pugachev, Oscar Frame, Mark Chino オスカー・フレーム(インタビュー記事)は、ワガノワ・アカデミーを卒業した英国人でツィスカリーゼの教え子です。ほかに注目されるのは、インスタグラムのruby.tearで有名なスタニスラヴァ・ポストノヴァと、タチアナ・オシポワ、モスクワ国際バレエコンクールジュニア2位のIgor Pugachevです)

その中で、モスクワ国際バレエコンクールで金賞を受賞した千野円句さんが、もっとも期待される入団者だと話ジーエルは称えています。9月の「エチュード」で千野さんを主役に抜擢したのは、ロシアバレエの歴史の中でも稀なことだそうで、ニジンスキー、ヌレエフ、ヴィシニョーワ、イワン・ワシーリエフなどと並ぶことだそうです。

242回目となる今シーズン、オペラとバレエと合わせて11の新しいプロダクションが予定されています。『ヌレエフ』の他、3月23日にボリショイ劇場でのジョン・ノイマイヤー振付の『アンナ・カレーニナ』が初演され、そしてラトマンスキー振付『ロミオとジュリエット』は11月22日、イリ・キリアンの『忘れられた土地』(音楽はブリテンの「レクイエム」)は11月2日に、先シーズン初演されたロビンスの『檻』と『エチュード』と共に上演されます。

2018年6,7,8日に予定されていたマリウス・プティパ生誕200周年記念公演「The Great Petipa」はキャンセルされました。この公演は、ブルーラカ、ヴィハレフ、ラトマンスキーという3人の振付家がプティパの作品を復元して上演するという企画だったのですが、セルゲイ・ヴィハレフの急逝を受けてキャンセルされてしまいました。プティパ200周年には、5月31日に世界のバレエスターを集めてのガラ公演が行われるとのことです。また、久しぶりにプティパの『ファラオの娘』を復活させようとワジーエフは提案しているそうです。

ヴィハレフが復元した『コッペリア』(プティパ、チェケッティ)はレパートリーに復活しました。当初は12月14日に新劇場でリバイバルが予定されていましたが、その日は『パリの炎』が上演されることになりました。ヴィハレフの急逝に伴い、また『ヌレエフ』の初演が12月に予定されていることもあり、シーズン後半に上演されることになります。

2017/09/14

オランダ・ハーグ王立音楽院 ヤン・リンケンス校長による ワークショップ & オーディション開催

10月21日(土)・22日(日)に、オランダ・ハーグ王立音楽院 ヤン・リンケンス校長による ワークショップ & オーディションが開催されます。ヨーロッパトップレベルのバレエスクールに留学するチャンスです。

http://shballet.jp/audition_info.html#workshop_haag

オランダ・ハーグ王立音楽院は、1825年にオランダ国王ウィレム1世によって設立された、音楽とダンスの高等教育を提供する学校で、ダンス部門の生徒は120名を数えます。学校では世界のバレエ団で通用するダンサーを育成するためのクラシック・バレエやパ・ド・ドゥクラス、ポワントクラス以外にモダンやキャラクターのクラスも取り入れています。

ネザーランド・ダンス・シアター(NDT)のダンサーやディレクターによるレッスンも週2回設けられています。

またローザンヌ国際コンクールのパートナー校であり、スカラシップ生を受け入れています。教育は英語で行われています。

ハーグ王立音楽院のSchool for Young Talent(16歳以下)では、生徒たちは一般の初等、および中等義務教育を受けながらダンサーとしての訓練も受けます。毎日、通常の学校のカリキュラムとダンスのクラスを組み合わせた教育を受講しています。このプログラムの最終段階が、Bachelor of Danceコース(17歳以上、実技のみ)です。

ハーグ王立音楽院では、イリ・キリアン、ニルス・クリスティ、ハンス・ファン・マネン、クリスタル・パイトといったダンス界をリードする才能からのインプットも受けて、「オランダ・スクール」のレパートリーの高名で独特のムーブメント語彙と音楽性を強化するカリキュラムを豊かなものにしていきました。これらの振付家の指導も受けることができます。特にNDTとは、「若い才能のプロジェクト」(Young Talent Project)と名付けられた合同の公演を行い、振付家の導きによって創造された新作やソロと共に、NDTのレパートリーも学生たちが踊ります。

2020年には、ハーグ王立音楽院はハーグにおける新しい教育文化コンプレックス(複合施設)に移転します。このコンプレックスには、NDTとハーグ・ダンス・音楽センターも同居することになっています。

ハーグ王立音楽院の卒業生には、現オランダ国立バレエのプリンシパル、マライン・ラドマーカーがいます。オランダ国立バレエ、NDT1、NDT2には同校の卒業生がかなり多くいます。

【ヤン・リンケンス 略歴】 オランダ・マーストリヒト生まれ。ハーグのロイヤル・コンセルヴァトワールにてダンスを学ぶ。1977年にオランダ国立バレエに入団。17年間をダンサー、振付家やそして後にバレエマスターとして活躍する。ダンサーとして、ピーター・ライトなどの振付と踊り、フレデリック・アシュトンなどの振り付けの作品も舞台で経験する。1994年からの五年間は芸術監督並びに専属の振付家としてドイツ・ベルリンのTanztheater der Komischen Operで活躍。2009年から2年間はポルトガル国立バレエ団で教師として勤めたほか、ダンサーとクラシックからタンゴまで様々な舞台に立つ。2011年から2016年にかけてはアムステルダムにある国立ダンスシアターで芸術監督、2014年からはハーグのロイヤル・コンセルヴァトワールの教師として後輩育成に尽力している。

【ワークショップ対象】 13歳~20歳
【オーディション対象】 14歳~18歳 (2018年9月時点)

10月21日(土) 15:30~20:40
 Aクラス クラスとレパートリークラス
 Bクラス クラスとレパートリークラス

10月22日(日) 10:00~16:20
 Aクラス クラスとレパートリークラス
 学校紹介・合格発表
 Bクラス クラスとレパートリークラス
 学校紹介・合格発表

【参加費】
ワークショップ A/B: 32,000円
※オーディション費用は上記費用に含まれます。

【場所】  新宿村スタジオ
最寄り駅: 丸ノ内線 西新宿駅 徒歩7分
     大江戸線 中野坂上駅 徒歩5分

【お問い合わせ】
S&H留学センター
TEL: 03-5950-8800 (平日10:00~18:00)

ほかにも、国立ハンガリアン・ダンスアカデミー オーディション&ワークショップ、ニーナ・アナニアシヴィリによる
ジョージア国立バレエ団研修生 オーディション等が開催されます。
http://shballet.jp/audition_info.html

2017/09/13

第29回高松宮殿下記念世界文化賞をミハイル・バリニシコフが受賞/追記あり

日本美術協会は12日、世界の優れた芸術家に贈る「第29回高松宮殿下記念世界文化賞」に、ラトビア生まれのバレエダンサー、振付家のミハイル・バリシニコフさん(69)ら5人を選んだと発表しました。

授賞式典は10月18日、東京・元赤坂の明治記念館で。賞金は各1500万円。

受賞者は次の通りです。(敬称略)

 <絵画部門>シリン・ネシャット(60)=イラン/アメリカ<彫刻部門>エル・アナツイ(73)=ガーナ<建築部門>ラファエル・モネオ(80)=スペイン<音楽部門>ユッスー・ンドゥール(57)=セネガル<演劇・映像部門>ミハイル・バリシニコフ(69)=アメリカ/ラトビア

http://www.praemiumimperiale.org/ja/

高松宮殿下記念世界文化賞は、日本美術協会によって1988年に創設されました。 絵画、彫刻、建築、音楽、演劇・映像の各分野で、世界的に顕著な業績をあげた芸術家に毎年授与されます。 国境や民族の壁を越えて全世界から選ばれた受賞者たちは、私たちの時代の文化芸術の世界を代表する人たちです。

【第29回世界文化賞・受賞者の素顔(5)】
〈演劇・映像部門〉ミハイル・バリシニコフ氏 繊細な表現 国境を超え魅了
http://www.sankei.com/premium/news/170913/prm1709130013-n1.html

ミハイル・バリシニコフの功績については、今更述べるまでもありませんが、1966年にヴァルナ国際バレエコンクールで金賞を受賞。キーロフ・バレエ在籍中の1974年、26歳の時に亡命しました。ABTとニューヨークシティ・バレエで活躍し、ABTでは芸術監督にも就任しました。バリシニコフ主演の「ドン・キホーテ」映像は、輝かしいテクニックとチャーミングなキャラクターで、この作品の映像化の中でもベストの一枚です。映画出演作「愛と喝采の日々」(77年)では、アカデミー賞助演男優賞にノミネートされています。大ヒットTVドラマ『SEX and the CITY』では、ヒロイン、キャリー役のボーイフレンドを演じました。

2005年にニューヨークに設立した「バリシニコフ・アーツ・センター」を拠点に、若手芸術家の育成にも尽力するいっぽうで、現在もホワイト・オーク・プロダクションを中心にコンテンポラリーダンスや演劇の舞台に精力的に立っています。マッツ・エックが振付けた「PLACE」ではアナ・ラグーナと共演し、また一人芝居 “Letter to a Man”ではニジンスキーを演じています。

授賞式典は10月18日、東京・元赤坂の明治記念館で行われます。

ダンス関係で世界文化賞を受賞しているのは、第5回のモーリス・ベジャール、第11回のピナ・バウシュ、第17回のマース・カニンガム、第18回のマイヤ・プリセツカヤ、第24回の森下洋子、第27回のシルヴィ・ギエムです。

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【話の肖像画】バレエダンサー ミハイル・バリシニコフ(1) あえて自分を賭けてみる
http://www.sankei.com/life/news/170919/lif1709190006-n1.html
【話の肖像画】バレエダンサー ミハイル・バリシニコフ(2) 母と師匠が育て上げてくれた
http://www.sankei.com/life/news/170919/lif1709190007-n1.html

【話の肖像画】バレエダンサー ミハイル・バリシニコフ(3) 米国に亡命、新たな表現へ
http://www.sankei.com/life/news/170920/lif1709200012-n1.html

2017/09/12

マチルダ・クシェシンスカヤの伝記映画「マチルダ」をめぐる騒動

帝政ロシア、ロマノフ王朝の最後の皇帝であるニコライ2世の愛人としても知られた、マリインスキー劇場のプリマ・バレリーナ・アッソールタ、マチルダ・クシェシンスカヤ。彼女の生涯を描いた映画作品が完成し、10月にロシアで封切られる予定ですが、数々のスキャンダルに見舞われています。

http://www.imdb.com/title/tt4419196/

そもそもこの企画は、スヴェトラーナ・ルンキナの夫君であるウラディスラフ・モスカレフ氏が共同プロデューサーだったのですが、同じくプロデューサーであるウラジミール・ヴィノクールと金銭問題のトラブルが起き、結果的に脅迫されたルンキナの一家がロシアを出てカナダに移住するという事態に発展したという曰く付きのものでした。ヴィノクール(娘はボリショイ・バレエのソリスト、アナスタシア・ヴィノクール)は、この映画のプロデューサーとしての名前は残っています。

さてこの作品は、制作途中から「クリミアの美人すぎる検事」として日本でも有名になり、現在は国会議員となったナタリア・ポクロンスカヤ氏が、映画の内容に疑義を呈し、検察庁に調査を要求するという問題が発生していました。この作品はニコライ2世を中傷するものだと彼女は主張しているとのことです。当初リリースされた予告編の映像に、濃厚なラブシーンがあったことも問題視されました。

この辺のいきさつについてはこちらの記事で。
ロシア皇帝とバレリーナのロマンスを描いた映画「マティルダ」をめぐるスキャンダル
https://jp.sputniknews.com/opinion/201708184000547/

さて、この問題とは別に、「マチルダ」に対する様々なトラブルが発生しています。
Rage at tsar film suspected in Russia car blaze
http://www.bbc.com/news/world-europe-41225387

8月31日に、この映画の監督であるアレクセイ・ウチーチェリのスタジオが、火炎瓶で襲撃されました。さらに9月11日には、アレクセイ・ウチーチェリの弁護士の事務所の前で、2台の車が炎上しました。現場には"Burn for Matilda".と書かれた紙が置いてあったそうです。同じ日のモスクワの映画館で予定されていた試写会は、保安上の問題でキャンセルされました。

予告編

ニコライ2世の役を演じる俳優が、ドイツ人俳優のラース・アイディンガーであり、そして(映画完成まで伏せられていた)マチルダ役はポーランド人女優のミハリナ・オリシャンスカヤであるということに対しても、反感を持った人が多かったようです。(クシェシンスカヤ自身は、ポーランド系だった)特にロシア正教会の熱心な信者の中には、ニコライ2世を神格化している人もナタリア・ポクロンスカヤを含め、多くいるとのことです。

マチルダ・クシェシンスカヤがマリインスキー劇場のプリマバレリーナだったことから、映画の世界初公開は10月7日にこの劇場で行なわれます。バレエとオペラが中心のマリインスキーで、映画の初演が行なわれるのは劇場の歴史上初めてだそうです。音楽プロデューサーをマリインスキー劇場のワレリー・ゲルギエフ芸術監督自らが務めるなど、スタッフも豪華。17トンもの布を使った華麗な衣装も見ものだそうです。撮影はマリインスキー劇場の他、エカテリーナ宮殿、ユスポフ宮殿でも行われました。出演者の中には、ミハイロフスキー・バレエのファーストソリスト、アナスタシア・ロマンチェコワの名前もあります。

ロシアにおける一般公開は10月26日から。ドイツ、オーストリア、スイス、米国でも公開が予定されていますが、日本における上映予定は未定だそうです。

ブロードウェイミュージカル「ファインディングネバーランド」

ピーターパン誕生の実話に基づき、ジョニー・デップ主演で映画化した「ネバーランド」のミュージカル化「ファインディングネバーランド」のブロードウェイのプロダクションが現在、シアターオーブで来日公演を行っています。

http://findingneverland.jp/

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1904年。新作が書けなくて苦しむ劇作家バリが、公園で出会った4人の子どもたちとその母シルヴィアに出会う。父親を亡くして悲しみに心を閉ざした子どもたちの心の扉を開き、彼らと交流を深めるうちに、バリは次第に子どもの心を取り戻して触発され、彼はピーターパンの物語を書くことになる。

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(c)Jeremy Daniel

「ピーターパン」という作品の着想がどのように得られて、舞台として誕生していくかのプロセス、そして紆余曲折を経て初日を迎えるまでを目撃することができるこの作品は、劇場賛歌、演劇賛歌であり、特に舞台人にとってはぐっとくる描写、舞台への愛にあふれている。舞台の魔法がここにあるんだ、と改めて、劇場で舞台を観に行く理由を再認識することになる。

バリが書き上げた「ピーターパン」のあまりの奇抜さに驚くキャストやスタッフは、やけくそを起こしてパブに繰り出して大騒ぎをする。そこで子供の心に還って自由奔放に「PLAY」と遊びまわり歌が現れる時、「演劇」って「PLAY」なんだなと実感した。演劇って本来、楽しいことだし、出演者も楽しまなくては!

「ピーターパン」の初日が明けた後、シルヴィアの病気のために観に行けなかった子供たちのために、出演者たちは初日の後、シルヴィアの家で舞台を再現する。切ないんだけど最高にあたたかくて素敵だった。本当に演劇って、魔法なんだと実感させられる。ピーターパンとウェンディが空を飛ぶところは、共演者が扮する黒子にリフトさせることで表現。アナログなところがまたリアリティがあっていい。

そしてシルヴィア役のクリスティン・ドワイヤの豊かで美しい歌声が心を打つ。キラキラした光の渦に、歌うシルヴィアが包まれる場面は本当はとても悲しいシーンなのに、あまりの美しさで深く感動をしてしまう。シルヴィアはとても強い女性だ。

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(c)Jeremy Daniel

バリに触発されて、子供たちのひとり、父の死に一番傷つき心を閉ざしているピーターが自らも物語を書き始めるというエピソードは「フィクションの力」と希望を感じさせる。大人になりたくない「ピーターパン」の名前は、彼からとったものだった。スプーンに反射した光を見てティンカーベルという妖精を誕生させたというエピソードが素敵。その存在を疑われると妖精は弱って消えてしまうという設定は、ファンタジーの持つ力を象徴させている。バリを叱咤激励するフック船長や、ピーター・パンの世界のワクワクさせられるビジュアル化表現も秀逸。

子どもたちの無限の可能性と夢みる気持ち、何事にもとらわれない想像力でなんだってできるってこと、でも一方で人生では、一生懸命願っても叶えられないこともあるということも、様々なイマジネーションを駆使した演出や効果で描いてくれてる。想像力に翼が生えてどんどん広がっていく様子を舞台の魔力を使って魅せてくれる。

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(c)Jeremy Daniel

愛らしく芸達者な子役や犬なども登場するけれども、人生の苦さと悲しみもこの作品は描いている。妻とすれ違うバリと、4人の子どもを抱えた未亡人であるシルヴィアとの関係が噂になる。シルヴィアと母との確執、父を亡くした子どもたちの心の傷、そしてシルヴィアの病。

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(c)Jeremy Daniel

一方で、スランプに陥ったバリを温かく見守り信じて支えるプロデューサーのフローマン(彼を演じるジョン・デイビッドソンがフック船長としても登場するというキャスティングがいい)や、舞台の出演者たち、ステージマネージャーのエリオットなど、脇キャラクターもそれぞれ魅力的。

音楽は、テイク・ザットのメンバーであるゲイリー・バーロウで、楽曲も美しく親しみやすくて素晴らしいし、ブロードウェイでのオリジナルキャストによる出演者たちの歌も、それぞれ役を体現していて魅力的で聴きごたえがある。振付のミア・マイケルズは、テレビ番組「アメリカン・ダンス・アイドル」やセリーヌ・ディオン、プリンス、マドンナの舞台などで知られる。エグゼクティブ・プロデューサーは、「ネバーランド」始め数々のヒット映画を世に送り出したハーヴェイ・ワインスタイン。

トニー賞受賞式でのパフォーマンス (今回のキャストとは異なる)

シルヴィアの部屋での「ピーターパン」パフォーマンスのシーンから涙が止まらなくなり、「だから生の舞台は素晴らしいし、足を運ばなければ」と実感。大きな感動を味わった。終演後は観客が総立ちとなったのは言うまでもない。リピーターチケットを買い求めるお客さんの長い列もあった。

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(カーテンコールは撮影可)

J.Mバリ : ビリー・タイ
シルヴィア : クリスティン・ドワイヤー
チャールズ・フローマン/ジェームズ・フック船長 : ジョン・デイビッドソン
デュ・モーリエ夫人 : カレン・マーフィー

【演出】ダイアン・パウルス
【作曲・作詞】ゲイリー・バーロウ、エリオット・ケネディ
【脚本】ジェームズ・グラハム
【振付】ミア・マイケルズ


ブロードウェイミュージカル「ファインディング・ネバーランド」は9月24日(日)まで東急シアターオブにて上演。チケット発売中。強くお勧めします。

なお、石丸幹二主演にて、2019年日本版「ファインディング・ネバーランド」上演が決定しています。

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